piece2-3 A break and A start

「ほら。」

ライ麦のパン、ハム、玉子、トマト、レタス、オニオン。
ヨリは手渡されたサンドイッチをまじまじと凝視してしまった。
ヒナと二人になってから食べていたものと言えば、堅くなりかけたパンと牛乳、たまにママレードか野菜スープが付く程度。しかも昨日一昨日に至ってはまともな物を食べていない。そんな食生活だったお陰で、賭博場近くのレストスペースで売っていたサンドイッチが豪華なディナーに見えてしまう。
それを持つヨリの手には青いハンカチが巻かれていた。不意に出て来た空腹の叫びを聞かれた折に、黒髪の男が巻き付けてくれたものだ。
無くした手袋の替わり。
そう言って結ぶ時の顔が、ヨリは気になっていた。この男とは初対面だが、その時の表情は見た事がある。
だが、それを思い出そうにも、手の中にあるサンドイッチの鮮やかな色に思考を奪われていく。

「何でここまでするの?私、何も持って無いよ。」

世の中は等価交換が原則。物には値段がある。労働には報酬が付く。
だから物を貰った時には、それ相応のものを返す事。働いた時には相応の報酬を貰う。
顔が良くて手にイデアの刺青が刻印されていれば、ヘヴンズ・ドアに並ぶ店に普通の倍の値で売れる。この街には、そんな事を考える人間がいる。
ヨリは頭の中を占めようとする食欲を必死で押し退け、恩人に教わった事を思い出して男の顔を見上げた。
目か合うと普通に笑った事で、ヨリは更に不安に駆られる。元々が人との馴れ合いに慣れていない所為で、彼が何を考えているのか全く分からなかった。

「これ位で何か取ろうと思ってないし、何もしない。安心して食べな。」
「でも...」
「それに、そんな顔してたら頭も働かないだろ。」

目の前でそう言われても鏡を持っていないので、自分がどんな顔をしているのか分からない。だが、食べ物を目の前にすると彼の言う通りで、頭の中は考えがまとまりそうもなかった。
更に、人探しを始めてからはまともに寝ていない。
疲労、空腹、眠気。全てが相俟って、食べる事以外を考えるのすら億劫になっている。

本当に食べていいのか。
でも食べたら何か返さなければ。
返すモノ、返すモノ、返すモノ。
やっぱりお金になりそうな物なんて持って無い。どうしよう。
その前に、食べなかったらこの人はコレをどうするんだろう。
捨てはしないだろうけど、捨ててしまったら勿体ない。
やっぱり食べたい。

ヨリは手の中にあるパンを睨み付け、必死な顔で悩んでいた。
与えた方はそこまで悩まれるとは思っておらず、まさに野生の動物でも見ている気分になっていた。ジャンクと物騒が入り交じる雑踏の中だと言うのに。彼らの間にだけ妙な沈黙が満ちている。

「よし、まだ喰ってないな!」

そんな沈黙をなぎ払う様に、ヨリは突然後ろから誰かに頭を撫でくり回された。これでもかと力任せな撫で方で、ヨリは更に混乱して目を回し、ジンは呆気にとられてしまう。
二人して我に返ったのは、ヨリが首根っこをがっしりと掴まれ、そのまま猫を摘む様に襟を持ち上げられた時だった。

「離して!」
「何してる。ここまで付いて来ても、席は外すんじゃないのか。」
「俺もこの子と同じで寂しがりのお年頃なのよ。」

アルトはヨリの襟を放しても、彼女が逃げる前に後ろから抱き付き、ニットキャップ越しに頬擦りしていた。
パンの匂いで沸いていたヨリの食欲は、アルトの服に染み付いた血と汗の匂いによって、ものの見事に打ち消されていく。

「離して、臭い!」
「いいだろ減るもんじゃなし。それにお前も汗臭いだろ。」
「余計臭くなるから止めて!」
「癇癪起こして面白いなぁ。何だ、眼鏡の様に餌づけて欲しいのか。」
「餌づけとか言うな。」
「餌づけじゃなきゃ調教か。この子に何を仕込む気だ?」

その一言はクソの付く程に真面目なジンの逆鱗を、これでもかと踏み付ける一言だった。ジンは無表情でポケットから懐中時計を取り出し、そのまま力任せに握り締める。

「お前が言いたい事はよく分かった。自分を今すぐに悟りが開ける迄躾て欲しい、そういう事だな。」

先程アルトの見せた殺気とは違う。だが、その目は本気の殺意に満ちていた。ぶいぶいと飛び回る羽虫を、鬱陶しさに叩き潰す時の雰囲気に近い。
ジンが時計を握り締めると同時に、アルトはヨリを素早く離し、屋根で囲われた方向を見上げた。

「よし、明日もいい天気だ!」
「明後日も明々後日も晴れにしてくれ。」
「おう、任せとけ!」

アルトは景気の良い返事をすると、剥げかけた無言の屋根を見上げながらつかつかと売店へ向かって行った。離れていくアルトを眺めながら、ジンは懐中時計をポケットに仕舞った。
唐突に何の問答が行われたのか。渦中の中心だったヨリは訳が分からず、更にさっきの人殺し染みた殺気を間近で浴びて、自分まで殺されるんじゃなかろうかと、吃驚した顔で二人を見ていた。
逃げられるものなら、手の中にあるパンだけ持って逃げ出したい。
分かり易い殺意をダブルで煽ったからか、怯えを越えて恐怖で固まる位に酩酊していた。

「大丈夫、君には何もしないから。」
「......本当?」
「話聞くだけだから。」
「.........本当に?」
「嘘は吐いてない。君を連れ回してヘヴンズ・ドアの誰かに売るつもりも無い。用が済んだら好きにしていい。」

先程から怯えっぱなしのヨリは、ジンのその一言で命の危機を感じる恐怖から覚め、今の状況を何となく理解する事ができた。
とりあえず空きっ腹の頭で分かるのは、眼鏡を掛けている人は話を聞いてくるだけ。
何もしない。約束を破る人でもない。
さっきから無茶苦茶な勢いで絡んできた人より強い。
でも、普段は逆転している。思い切り好き勝手に振り回されている。
恐らくは、すごく礼儀の正しい人。の筈。
ヨリは何故か、目の前にいる人は先生に、立ち去った人はヒナとそっくりだと思った。似た様な問答をしていたからかも知れない。同じ様な事をヨリに言っていたからかも知れない。

「あの人といて楽しい?」
「ああ。多少疲れるけど、他の奴より面白い。それに話の分かる奴だから......アルトの事、苦手か?」
「うん。最初、他の人と一緒だと思った。さっきもすごく嫌だった。」
「だろうな。嫌がる様で余計に燃え上がる馬鹿だしな。」
「これみたいに噛み付いてやりたかった。」

ヨリは勢い良くサンドイッチにかぶりついた。
人間不適格の印を押されているだけに、不適格者らしい野性的な物言いだった。しかし、獣と呼ぶ程の獰猛さは見せていない。まるで人に慣れはじめた小動物の様で、ジンは不思議な気持ちで彼女の食事をする様を眺めていた。
獣でも無いが、人間でも無い。この調子だと彼女から何らかの情報を引き出すのは、かなり時間が掛かるだろう。

「小さい成りで無理するな。それに噛み付く相手は選べ。」
「うん。貴方には噛み付かない。」
「どうして?」
「だって私を『人間』だと思って喋ってる。先生やヒナと同じ人だ。」

口の周りに食べ滓を付け、悠然とした笑みを浮かべた。その微笑は明らかにジンに向けられている。
まだ警戒心は解かれていない。が、ジンが自分の行動とアルトのうっかり謝罪をした時から比べると、ヨリの表情の険しさは随分和らいでいた。
男でも女でも、異性を口説き落とす時には、誠意が必要不可欠。それに歩み寄る姿勢を加えれば、相手の心に築かれた警戒心という砦は崩れていく。一度は綺麗に人間としての機能を放棄していたといえども、女としての感情をヨリは無くしておらず、彼女の笑顔を見てそれが女を引っ掛ける常套手段でもある事に気がつき、ジンは少々複雑な心境になっていた。

別段口を開かせるにはいい手段かも知れないが、口の周りにパン屑付けている子供に何をときめいているんだ。
そんなものを感じてどうする。

先程と立場が見事に逆転してしまい、大自然のワンカットからコメディ染みた妙な寸劇に変わっていた。

「どうかした?」
「いや、何でもない。......まだパン屑付いてるぞ。」
「うん。」

ごしごしと頬を擦るヨリから視線を外すと、眼前に緑の瓶が突き出されていた。

「惚れたのか?一回りは下の子供に。」

うっかりヨリの笑みとは違って、子供相手に動揺した事を一部始終見ていたアルトが、その様を嘲笑いながら瓶を差し出していた。
ジンが瓶を掴むと、まだひんやりとしていて、蒸せるこの場所には丁度いい。それ以上に気持ちのクールダウンには最適な代物だ。煽るより先に額に当て、無理矢理暑さにやられた振りをする。
ヨリはまた不意打ちに捕まえに来るのではないかと怯えつつ、ジンが受け取るのを見てからおずおずと受け取った。
しかし、ヨリは怪しんだ顔で飲もうとしない。ジンは不思議に思い、瓶のラベルを眺めて見た。額に当てた瓶にはビールの銘柄、ヨリの持っている瓶には同じ会社で林檎が大きく描かれていた。

「このビールは何?っつか、どこで見つけてきたんだ。此処はこんなフルーツビールまで売ってたか?」
「どこまでも無視かい。これの片がついたらばっちり問い詰めるから覚悟しとけよ。」
「だーかーらー!」
「ま、ビールは食い物のお友達だろ。だから買って来たのよ。さぁ、五本分の金を俺に払え。」
「誰が払うか。その前に、空きっ腹だった人間に酒を勧めるな。」
「景気づけだからいいんだよ。けちくせェ事してたら、この子も気分が和まねぇだろ。」
「気を使う場所が違う。色々が間違ってる。」
 アルトはジンの話を聞き流し、人懐っこい笑顔で、怪しんで瓶を眺めるヨリの頭を豪快になでていた。
「俺の奢りなんてそうないぞ。美味いビールなんだから心して飲め。」
「話を聞け。毎日が自由人。」
「何を言う。俺が何時何処で自由を掴んでるよ。」
「何時でも何処でも。今まさに。」
「そうかぁ?気を遣ってるぞ。気さくで繊細なんだぞ。」
「気さくでも繊細でも、まず借りた金は返せ。人の財布はお前の財布じゃない。」
「阿呆か。宵越しの金は持つ人を腐らせるんだ。」
「なら、腐る前に返せ。それを言うお前の人間性が腐ってる。」
「な、眼鏡は酷い事言うだろ。」
「へ?」
「逃げるな!他人を巻き込むな!」

話を聞きたいと言いながら、何がどうなって口喧嘩をしているのか。
不意に目線がアルトの手下に向いた瞬間、ジンに払えと言った五本分の数字の意味が分かった。明らかに空瓶とおぼしき瓶を三本、ガチャガチャと振り回している。しかもそれぞれ色とりどりの違う瓶で、そのビールの事など忘れた様に、お互いの貶し落とし合いを繰り返している。
何だか馬鹿らしくなってしまった。おかしい気分をそのままに、渡された緑色のボトルを一気に煽った。炭酸とビール独特の苦み、そしてリンゴの甘み。しかし勢い良くあおった為、気管に入ってしまい派手に咳き込んでしまった。

「お、勢いでいくクチだ。」
「そんな振り分けするな。大丈夫か?」
「うん。平気。」

炭酸の刺激は初めてだったが、別に悪いものでは無かった。
この人が本当に気さくな人だったら、この人なりのやさしさの表れだろう。賢い人だったら、ビールに毒を仕込んでいるだろうし、これで自分の賭けは終了になる。
話をする位なら構わないと、ヨリは心を決めた。

「私、何も知らないのに。何でここまでするの?」
「知らないと思っていても、こっちの知りたい事が分かっているのか?」
「分かんない......でも、先生やヒナと出会う前の事、覚えて無い。だから、色んな事忘れてると思うよ。それでもいいの?」
「その辺は気にしないから。別に俺達相手に嘘を付く理由は無いだろ。」
「俺は何も聞かんし喋らん。この眼鏡が筋道見立ててくれる。うっかりしたら、こいつに呪われるからな。」
「うん、分かった。」

彼女の真剣な面持ちに、ジンは我に返った。
今目の前にいるのは秩序をもった無差別殺人の関係者だ。不用意に犯人の領域へ踏み込んでしまうと、顔も知らぬ主犯に後ろを取られる羽目になる。

「じゃあ、貴方の質問に答えるから、私も一つ教えて。貴方達は誰がヒナを殺したと思ってるの?」
「ヒナ?」
「この真ん中に写ってる子。」

ジンとアルトの顔を見上げ、薄汚れた上着のポケットから皺でひしゃげた写真を取り出した。
写っているのは至って平和な家族だった。栗色の髪に焦茶色の瞳、背の高い男と、儚げな雰囲気を持つ白金髪の婦人が、彼女によく似た子供を抱えて座っている。
名前までははっきりと思い出せぬものの、皆の肩を抱いて写真に写っている男の顔は確かに見覚えがあった。
この写真に写る家族の長が、ジンの持っている時計と同じ物について研究していたプロジェクトメンバーの一人で、クローディアの捜索で話題の医者だ。
写真に映る彼らの年齢と容姿で、これは彼の家族と推測できる。
第一容疑者の横に写る婦人は妻、彼女に抱き抱えられて写る子供が『ヒナ』だろう。

「誰が『ヒナ』?」
「子供の方。これ、かなり昔の写真だと思う。その子が私ぐらいの年になってるんだと思って。」
「俺が知っている位だったら、君を捕まえようとする奴なんていないだろ。その犯人を掴まえる為に、皆が君を探しているんだから。」
「そう......教えてくれてありがと。とりあえず人殺しの犯人捜すなら、私以外の誰かに聞いた方が早いと思うよ。」
気落ちした顔で俯く。反応がどこまでも素直で分かりやす過ぎる。誰にも騙されなかった事が奇跡に近い。
「それで、君は追われる立場で何処に行こうとしてるんだ?」
「さっきのビルの下にある闘技場。一回だけ先生がドクターとして行った事があったの。その時、知り合いに頼まれたって言ってたんだ。約束でここには来ちゃいけなかったけど、場所だけは知ってたから。」
「へえ、誰との約束?」
「先生との。私より喧嘩が好きで我が儘な人しかいないし、私が嫌がる事しかしてこないから行くなって。貴方みたいな人でしょ、そういう人って。」

アルトを真直ぐに指差す。派手に怒るかと思いきや、正解だと満面の笑みでヨリの頭を撫でていた。しかしさっきのハグより強引で豪快なので、しっかり嫌がられている。ヨリの嫌がっている触れ合いをあえてやる辺り、アルトらしいと言えばアルトらしい。
そしてアルトが真面な事を聞いてくれたお陰で、件の外科医に人権論者という情報が加わった。彼は彼女をどうするつもりだったのかは分からずとも、普段の扱いは子供と同じにしていたと推測できる。

「その知り合いの名前は?ここに来た位だから覚えているんだろ。」
「覚えているのは顔だけ。多分、悪い人じゃないと思う。無茶な事を言わなかったし、銃を持ってなかったから。......私一人で探そうなんて馬鹿な事かもしれない。でも、何もしないよりマシだと思って。」

凶器は見せていなかっただけで、恐らくは興行者のお仲間だ。そうで無ければそんな場所に普通の医者を呼ぶ訳が無い。相当生活に困っていた上に、専門を問わず仕事をしていた事が伺える。
そして、唇を噛み締めているヨリの目に嘘は無かった。

「やばい、これは本気で可愛い生き物だ。お前がいらんのなら俺が飼う!」
「お前の願望は聞いとらん!」
「私はペットじゃない!」
ジンは勢い良く撫でるアルトを押しのけ、混乱状態のヨリに一番簡単な質問を投げかけた。
「じゃあこっちもひとつだけ。君は誰が彼女を殺したんだと思ってる?」
「......分かんない。でも、先生は犯人じゃない。」
「その根拠は?」

しばしんだ後、二人を睨みつけると、いきなり襟を肌蹴させて肩を晒した。
太く赤く残る裂傷痕が細い肩で不気味に浮き上がっている。その中には派手に深そうな切創痕もある。

「先生が患者を殺したりする人だったら、私はとっくに死んでる。」
「説得力に欠ける回答だな。医者なら、病は幾らでも治す。それが人殺しの道具で...」

人殺し。
ジンがそう言うと同時に、ヨリはビール瓶を振り上げていた。咄嗟に上げた腕で瓶は砕け、ジンの耳元で乾いた音が響く。

「誰もヒナを殺してくれなんて頼んでない!」

手の刺青を見る度に、そう思われても仕方の無いのは分かっていた。しかし、直接言われてしまえばショックもひとしおで、少しでも気を許した気持ちが悔しかった。

「私は『ヒナを守って』って言われたの。物覚えも悪くて、真面に人と思われない私に頼んだのよ。それに、先生から人を殴っちゃ駄目だって言われたけど、人を殺せって言われた事なんか無い!」

情けない気持ちを振り払う様に自分の気持ちを言うものの、感情の高ぶりで段々言いたい事が纏まらなくなってしまい、その状態が更に情けなくなっていく。気がつけば涙で視界がぼやけていた。

「殴られたり蹴られたりすれば、痛い事はちゃんと分かってる。分かってるから、許せないの。それに......」

溢れる涙を拭い、目の前にいる男二人を見上げた。
自分のやっている事が悪いと言うなら、その全てが悪事で結構。そう呼ばれるのは己だけだ。譲れない部分を伝えない限り、今此処に留まっている理由が分からなくなる。

「先生が悪者になるのは、絶対嫌。」

強い意志と、揺らぐ事の無い感情。それを毅然とした顔でぶつけられてしまい、ジンは返す言葉を無くしてしまった。
的外れなアルトの妄言は、恐らく外してはいない。
この人殺しの狂宴を考えた主催者は、行方知れずの医者でも、持ち主を無くしたシュラインでもない。勿論彼女でもなく、何らかの目的があってシュラインを知っている第三者が始めた事だ。
人形になる事を拒絶し、人間である事に執着する彼女に人殺しをさせる方法なんて、そう簡単に出来るものではない。たとえ切掛けを作ったとしても、ほぼ思い通りには動かない。精々処理できるのは数人が限界だ。
隠れ蓑になっていた彼女を押さえれば、主犯の次の一手はおのずと決まる。新たな傀儡で流言を探すか、手元で動いていた人形を取り返す為に仕掛けてくるか。事件の様相を考えると、前者の選択は無い。

「すまない。傷つける事を言って。」

アルトは呆れた顔をして、ジンを見ていた。

「で、どうするよ?」
「分かってるだろ。」
「まぁな......でも行く場所にロマンも糞もねぇなぁ。」
「来たくないなら来なくていい。」
「そうやって俺の取り分取る気だろ。」
「ああ、貰う。来ても何もしなけりゃ全部貰う。お前のポケットには友情で貰ったものがあるじゃないか。」
「あいつらとの友情なんてクソ食らえだ。俺は将来の愛人を取る。」
「絶対、嫌!」
「じゃあ俺等がお前を手伝ってやるっていうのは?」
「......え?」

驚いた顔で見上げるヨリの頭を、アルトがわしわしと撫でる。ニットの帽子が落ちて薄茶色の髪がはらはらと肩に落ちた。

「信用してる俺が手伝ってやるんだから、もう泣くな。涙の安売りは女の価値を下げちまうぞ。」
「阿呆、お前一人じゃないだろ。」
「......どうして?何で手伝うの?」
「さぁ、なんでだろうな。」

ジンはまた泣きそうな顔になっているヨリの頭を撫でた。アルトの言う通り、殺人鬼にするには確かに勿体無い。

「んじゃ、さっきの場所と、も一度ドクターのいそうな場所行っとくか。」
「医者は別の場所にいるの?」
「そうだぞ。基本別棟、負傷者の運び入れも別。要らぬ金は掛けないのが商売の常識だ。この辺りはおいらの故郷なーのよー。だーからー物知りー。」
「毎度、故郷の多いことで。その下手な歌は止めてくれ。」
「やーめなーいさぁー。望郷の思いで歌ってるんだ。根無し草で生きてりゃどこだって故郷なんだよ。」
「ああ、ハイハイ。」